大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)98号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人清水誠造の上告理由書は末尾に添えた別紙の通りである。

(一)論旨第一点は、原判決には上告人の主張した重要な事実に対する判断を遺脱した違法がある、というのであつて、問題の焦点は、上告人が本件の土地を賃借人から転借しているにつき賃貸人の暗黙の承諾があるという主張に対して原審が判断を下さなかつたという非難である。そこで上告人がわから右の主張があつたものと見るべきかどうかを考えて見ると、論旨が援用する控訴(上告)代理人提出の第一準備書面第三項および第二準備書面第一の第五項の記載は原審口頭弁論において陳述されていないことは、記録によつて明かだから、これについて原審が判断しなかつたのは当然である。かつまた、第一審判決事実摘示中右の点に関する記載は、土地の使用について地主(賃貸人)がわから異議の申出がなかつた、という陳述であつて、それが直ちに「黙示の承諾」なりとする主張とは見られないし、その他黙示の承諾については何等主張がないのであるから、原審がこの点について判断をせずまた釈明を求めなかつたとしても、判断遺脱その他の違法ありとするに足りない。

(二)論旨第二点は、原判決には審理不尽の違法がある、と非難する。上告人が、被上告人は「法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律」第二条にいわゆる「他人ノ権利ヲ譲受ケ訴訟其ノ他ノ手段ニ依リ其ノ権利ノ実行ヲ為スコトヲ業トスル」者であり、そしてその「業として」本件土地を譲受けたものであるから、右譲受行為は前記法律第二条に違反し無効である旨を主張したのに対し、原判決は、その疏明なしと判示しなお信託法第一一条違反の主張に対する判断の部分で、被上告人は製樽および製材業を営むものであり、本件土地はその材料置場として買受けたものであることが疏明されたものとしたのであつて、その判断には実験則違背その他法令違反の点は認められない。

(三)論旨はさらに、(1)本件土地の買受にはいわゆる事件屋が関与しその後に訴訟についても通謀画策していること、(2)被上告人は本件の土地につき紛争のあることを知りながら最初から訴訟手段によつて権利を実行する考で買受をしたものであること、(3)従つて買受と同時に訴訟準備をし一一日目に仮処分申請をしたこと等の事実を挙げ、これら一連の事実関係を社会通念に照して判断すれば、右買受「業」としてされたものと認めなければならないのに、原審がこれらの事実につき審理判断しなかつたのは、審理不尽の違法である、と主張する。原審が右(1)(2)(3)の事実を判断の資料としたかどうかは、判文上明かでないが、仮に右各事実が認められるとしても、被上告人が「他人ノ権利ヲ譲受ケ訴訟其ノ他ノ手段ニ依リ其ノ権利ノ実行ヲ為スコトヲ業トスル」者であり、かつその「業」として本件買受け行為がされたものとは認め得ないから、原判決が右各事実につき何ら審理判断しなかつたとしても、審理不尽の違法ありということはできない。

よつて本件上告を理由ないものと認め、民事訴訟法第四〇一条に従い棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例